「鏡の中の・・・」〜Cyber Zone番外編〜

「鏡の中の・・・」〜Cyber Zone番外編〜

 温かい羊水の中で眠っている自分。まだ小さな自分がいる。  身体中にペインティングされていることを除けば、人間のかたちをしている自分がいる。  無数に伸びたコード。僕の身体に繋がっている。それが異様さを増して見せている。  車椅子の初老の男性が、僕を見ている・・・眠っている僕を。  なにかを考えているのか、それともなにも考えていないのか・・・いや、なにかつぶやいている。 「私の・・・最高傑作だ・・・」 狂気にも似た声。震えている声。羊水の中に浮いている僕は眠りつづけている。 「私の研究が認められることはないだろう・・・だから、規格外品のマシンチャイルドを造る・・・それが、 私の最期の作品だ。誰にも邪魔はさせない。私の研究が素晴らしいものだということを思い知らせてやる。 すべてを注ぎこむ・・・マシンチャイルド・・・」 ドクター・クラウド。僕の製作者。  ああ、そうだ。僕はドクターの「想い」から造られたんだ。狂気にも似た想いをすべて、注ぎ込まれたん だ。  全部を・・・ 「大事な息子・・・私の」  その想いは一体、誰に向けたもの?  一体、なんのために僕を造ったの?どうして?  なぜ?僕はなんのために生まれたんだ? 「世界を滅ぼすために・・・」  誰?!誰がそんなことを言っているんだ?! 「よく見てみればいい」  目を凝らす。いつのまにか、暗闇の中。いや、違う。これは眠っている僕の「意識」の中だ。  この声は?僕がよく知っている声だ。  まさか・・・? 「ほら、よく見なよ?」  誰かが立っている。影になっていて、よく見えない。  誰だろう?  近づいてみる。  いてっ!なんだ。これ?!  壁?いや、ガラスにぶつかった。向こうに確かに、誰かがいるのに近づけない。  これじゃ・・・  ガラスじゃない、鏡だ!でも、向こうの僕は、違う動きをしていることに気がついた。  ひんやりとした感触。触れてみる。 「僕だよ。≪ta・ku・ma≫」  その声に顔を上げる。 「僕だよ・・・」  そこにいたのは・・・僕だ!  見覚えのあるレーシングスーツを身に纏い、歪んだ笑顔を浮かべて立っている。  鏡の中の僕。  僕がいる・・・!!  鏡の中の僕が、こちらの僕の手にまるで重ねるように手をあてる。 「なんで・・・?」 「僕たちは一心同体。心の中に「棲んでいる」のが僕。そして、外面がもうひとりの僕」 イヤだ。こんなの、あるわけない。鏡の中の僕が動いている。僕と同じ顔、同じかっこをしている僕が動い ている。 でも、動きがシンクロしないんだ!  鏡の中の僕が手を伸ばした。同時に、鏡から無数のコードが伸びてくる。  あ・・・あぁ、こんなのはイヤだ!!  コードに包み込まれる!!  うわ、わ・・・うわああああああああああああああああ!!!!!! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「タク!タクマ!!」 誰かに揺さぶられて・・・?眼をあける。 「どうした?!」 眼をあける。エキゾースト・ノートが響き渡る場所。人が往来しているところ。遠くから波の音も聞こえる。  ここはモナコ、モンテカルロ。 「あ・・・」 全身で呼吸して、琢磨はあたりを見まわした。全身に汗をかいている。手にもじっとりと汗がにじんでいた。 「夢見がわるかったのかい?うなされていたぞ」 「え?」 マネージャーのアンドリューが心配そうに見ている。 「ちゃんとドクターに診てもらったほうがいいんじゃないかい?」 「いや、大丈夫・・・ちょっとね・・・」 ジョーダングランプリのピット奥。うとうとしていたんだけれどな。  身体を起こして、大きく伸びをする。予選、あと2時間弱でスタートだ。 「ほら、準備してくれ。タク!大丈夫なんだろうな?」 「イエス!」 テクニカルディレクターが怒鳴り込んできた。慌てて隅にあったヘルメットを手にする。小さな鏡を見て・・・ さあ、行こう。今日は大事な予選なのだから。  彼が去ったあと、鏡が小さく光る。  そして・・・歪んだ笑顔の琢磨が・・・ 「逃げられないよ・・・一心同体なんだからね・・・」 (FIN) ☆ブラウザの「戻る」で戻ってください☆