「カフェ・アルファ」〜Cyber Zone番外編〜

「カフェ・アルファ」〜Cyber Zone番外編〜

「ここ、どこだ?」 琢磨は、愛車・BEATから下りてあたりを見回した。  ひび割れたアスファルト、人の背丈よりもずっと伸びてしまっている雑草、ツタの絡まった電柱・・・民家はほとんど見 当たらない。自分と愛車が妙に浮いて見えるのは気のせいだろうか。  再びクルマに乗り、ゆっくりと走らせる。やがて見えてきたのは、白い洋風の住宅だった。どうやら道はここで終わって しまっているらしい。 「カフェ・アルファ・・・」 白い壁には「Cafe Alpha」という看板が出ていた。またクルマから降りて、琢磨は呆然と立ちすくんだ。  と、目の前にあったドアが、カロンという涼しげな音とともに開く。中から出てきたのは女性だった。 「あ、いらっしゃいませ」 明るい声で自分を迎えてくれる女性。緑色の髪に紫の眼をしている。 「ここは?」 「カフェ・アルファです。これでも喫茶店なんですよ」 「喫茶店・・・」 カフェと言うからにはそうだろう。琢磨は少し考え込んだ。と、女性はにこっと笑って言った。 「どうぞ。中へお入りください」 言われるまま、彼は店の中へと入った。 「どうぞ」 コトンと目の前にコーヒーが置かれる。ふわりとコーヒーの香りがした。店の中はがらんとしていて、決してはやっている とは言えない。 「あのぉ、お客さん、失礼ですがどちらから?」 「え?あ、ええっと・・・横浜のほうから」 「ではお住まいもヨコハマで?」 「いえ・・・」 アルファ・・・店の主人の名前は初瀬野(はつせの)アルファという。店の名前とおなじだ。  アルファは自分のコーヒーを持って、琢磨の座っているテーブルの向かいに腰掛けた。彼女はお客さんと話すときはこう しているという。 「うちはほとんど、お客さんがきませんから」 そういって笑うアルファに、琢磨はなんとなくほっとするのを覚えた。なぜだろう?初対面のはずなのに、こんなにほっと するのは。  しばらく止め処もない話を続けた。  アルファは、ずっとここにいるという。誰かを待っているということは、琢磨にもわかった。時々、ふっと寂しげな横顔 を見せる彼女に、なんとなく同じようなものも感じる。 「私は・・・」 アルファがゆっくりと口を開いた。 「私は・・・ロボットなんです。だから、ずっとここで待っていることができるんです」 「えっ?!」 「私のオーナーを待っているんですよ」 「オーナー?」 「はい」 にこっと笑う。琢磨は思わず息を呑んだ。  どこからどうみても、アルファは人間にしか見えないのだ。見た目、肌や動きがとても滑らかで、本当に彼女がロボット なのかと疑うのも無理はなかった。 「でも、あなたは・・・」 琢磨が何かを言おうとすると、アルファはにこっと笑った。 「A7M2(エーセブン・エムツー)アルファタイプっていうんです。でも、私も自分がロボットだって言うことを忘れて しまうんですよ」  アルファは、ずっと待っている。いつ帰ってくるとも知れない「オーナー」を。彼女がすごしてきた時間は、きっと途方 もないくらいの時間なのだろう。琢磨はロボットではないが、人の手で造り出されたことは確かだ。アルファ=A7M2も 人の手で造られたことには変わりはない。だから、彼女に親しみを覚えたのかもしれない。 「アルファさん・・・」 「私は、ずっとこの黄昏の世の中を見ていくと思うんです」 窓の外を見つめる。 「私には、いくらでも時間があるのですから・・・」 「・・・」 窓の外は、綺麗な風景が広がっていた。ここは岬の一番先。向こうは海。良く見れば、海の底には沈んだ街の残骸が見えた。 「タクマさん、でしたっけ?」 「はい」 「あなたも、私とおなじような匂いがしますね」 「・・・わかりますか」 「ええ」 と、アルファは微笑んだ。  琢磨は、話を始めた。自分のことを。アルファになら、話してもいいかな・・・そう思ったのだ。 「ごちそうさまでした」 BEATのエンジンをかける。独特の音が響いた。アルファはめずらしそうにBEATを眺め、しばらく考えてから静かに 微笑んだ。 「お気をつけて。またいらしてくださいね」 どう見ても人間の女性にしかみえない。アルファは、琢磨のクルマが見えなくなるまで見送ってくれた。 (初瀬野アルファ・・・さんか) またどこかで会えるだろうか?  別の日。琢磨はアルファの店を探して、西の岬にBEATを走らせた。だが、店は見つからなかった。どう探しても、あ の白い建物は見つからなかった。 「夢?」 でも、それが夢ではないことが琢磨にはわかった。  店を出るとき、アルファが渡してくれたキーホルダーがあったからだ。 「これ、私が作ったんです。よかったら記念にもらってください」 魚のキーホルダー。丁寧に作られていた。 「・・・」 きっと、アルファは今も店でオーナーの帰りを待っていることだろう。  優しくて、健気な笑顔を浮かべて。                  (終わり)